僕が初めて旅に出たのは、まだ17の時だ。
恐る恐るネットで航空券を購入し、ひとり飛行機に乗り込み香港へと向かった。
香港は、幼少期に過ごした思い出の場所でもある。
電飾に囲まれた香港の混沌とした街並み、怒号のように飛び交う広東語、そして美しい夜景を眺め、ひとりで世界を飛び回る愉悦を覚えたのはこの時だ。帰国後すぐにいろいろな旅行ガイドブックを読みあさって次の「旅先」を選び始めた。
今思えば、幼い子供が裏庭を探索するような愛らしい冒険心だったが、それが僕の小さな旅のはじまりだった。
その後21歳でアメリカへ移住し、29歳で南米パラグアイの永住権を取得、32歳の時に南アフリカの女性と結婚することになる。
アジア、北米、南米、中東、アフリカの15ヵ国以上を放浪し、4つの大陸に居を構えた。
そうするうちに世の中の不可思議がほんの少し理解できるようになったと思うこともあれば、いまだに「さて、どうしたことか」と首をひねることもある。世界は広くて深い。そこに散らばる80億人の歴史はもっと深い。
30代も後半に差し掛かり、以前のような冒険心や好奇心は影を潜めてしまった。旅なんかもううんざりだと思うこともある。そんな僕が、若い世代に何か言ってあげることがあるとすれば何だろう。
「失敗したっていいさ。やりたいことを恐れずにトライしてみるといいよ」 こんなアドバイスはちょっとありきたりだろうか。